美容師見習いの男性を主人公にした長編小説「オールウェーブ」が発売になった日、作者の私は大規模書店の店頭でさらし者になった。本を買ってくれた人にサインをするのだが、誰もサインを求めてこないのだ。無名なんだから当たり前だ。こんな企画を設定した担当編集者を恨んだ。
 
 こんな調子で売れるのか心配だったが、現役美容師が読んだらしく、アマゾンにレビューが載った。
「作者は全然現実の美容師がわかっていない。取材が足りない」
といった散々なものだったが、それをきっかけに少しずつ売れ始めた。
 
 幸運なことに、テレビの早朝のニュース番組の美容師特集でチラッと紹介された。インタビューの依頼もあったが、それは勘弁してくれと断った。
「順調ですね。次回作を検討しましょう」
担当編集者はニヤニヤしながら言った。そういえばお仕事小説を専門にしたいと言ったのだ。先のことを考えていなかった。おいそれと取材に応じてくれる知り合いがそうそういる訳ではない。
「取り上げたい仕事の業界でバイトするのはいかがですか」
普通に働くのが嫌で作家になったのに。それに面接に通る自信がない。
「モデルになってくれる人を公募するのはいかがでしょう」
と返してみた。担当編集者はちょっと考えて
「ブログ始めてみて下さい」
と言った。
「そしてブログの読者に声かけてみて下さい」
うまくいくのだろうか。ブログは作家になる前にやったことはあるが、サービス閉鎖で消えてしまった。しかし今後のためにも、作家としてブログを書くというのはいいかも知れない。やってみよう。